2009年4月11日土曜日

中国内蒙古 映画 トゥヤーの結婚

第57回ベルリン国際映画祭金熊賞グランプリ 2006年・中国映画 なかなかおもしろかったです。
金熊賞をとった作品って外れがないな、と思うこの頃です。個人的満足度は、7/10。



アマゾン内容紹介
(引用)
内容(「キネマ旬報社」データベースより)
ユー・ナン主演、内モンゴルの荒野を舞台に、障害を持つ夫と幼い子供のためにたくましく生きるヒロインの姿を描いた感動作。下半身不随になった夫とふたりの子供を抱えながら生活を支えるトゥヤー。ある日、夫は彼女に離婚して再婚するよう勧めるが…。

第57回ベルリン国際映画祭金熊賞グランプリを受賞した至高の感動作が待望のDVD化!日本でも劇場公開され大ヒット、ヨーロッパ各国をはじめ世界中を魅了した、凛として生きる女性“トゥヤー”の物語!
ヒ ロインのトゥヤーを演じるのは、『マトリックス』シリーズのウォシャウスキー兄弟に“アジア最高の女優”と絶賛され、彼らの新作『スピード・レーサー』に 起用された中国人女優 ユー・ナン。彼女は、本作同様ベルリン国際映画祭でグランプリを受賞した『紅いコーリャン』(チャン・イーモウ監督)のコン・リーや、『LOVERS』 『初恋のきた道』のチャン・ツィイーらに続き、国際的な活躍が確実視されている。
ユー・ナンと本作の監督 ワン・チュアンアンは過去2作品でタッグを組み、国内外で高い評価を受けてきた。世界3大映画祭のひとつ、ベルリン国際映画祭で栄誉に輝いた『トゥヤーの 結婚』は、2人の映画人生において、現時点での最高到達点を示すと言えるだろう。次回作でもこのコンビが実現することが決定しており、中国のみならず、世 界の映画界に話題を振りまくことは間違いない。
ワン・チュアンアン監督と共同で脚本を仕上げたのは、『さらば、わが愛/覇王別姫』『活きる』など、傑作中国映画を手がけてきたルー・ウェイ。不幸な運命に抗い凛々しく立つヒロインの姿を、ときに温かく、ときにユーモアを交えて描き出した2人の手腕は見事だ。
荒 涼としたモンゴルの風土と、色彩豊かな民族衣装のコントラストが織り成す映像美も見所のひとつ。ドイツ人カメラマン ルッツ・ライテマイヤーによる、登場人物たちの素朴な暮らしぶりや人柄、その息遣いまでも伝わってきそうなリアリティ溢れる映像は、まるでドキュメンタ リー映画のように観る者に迫ってくる。撮影前の数ヶ月間、モンゴルで現地の人々とともに生活したというユー・ナンが演じる、化粧っ気もなく、寒さをしのぐ ためにぼってりと重ね着をしたトゥヤーが、美しく感じられる瞬間があることに驚かされる。
厳しい自然の只中で不運な境遇に見舞われながらも、家族 への愛を貫いて生きるトゥヤー。苦難に出会う度、全てを受け入れ、もう一度歩き出してきた彼女が最後に見せた涙の意味は、果たして何なのだろうか。その答 えは、この映画を観た人それぞれの胸に、鮮烈に浮かび上がってくるだろう。
(引用終わり)

* 内モンゴルなのになぜ中国語
本作品は、中国領とは言え内モンゴル自治区の草原を舞台にした、ほぼモンゴル人しか登場しない作品です。モンゴル人はモンゴル語を母国語としています。それなのに、歌の部分を除き、登場人物は中国語を話しています。こんなことは現実ではありえません。言葉は文化の重要な部分。モンゴル語を話してほしかったです。けれど、おそらく、中国語を話さないと中国版映倫が映画を承認しないという事情があるのでしょう。病院に入院するシーンでは病室に毛沢東と鄧小平の絵がでかでかと貼ってあったり、家の仏壇にはパンチェンラマ(モンゴル人は伝統的にはチベット仏教を信仰していますが、中国領内のチベットや内蒙古ではインドに亡命中のダライラマの写真を飾ることはできません。)だったり、と意外な部分で中国政府の抑圧を受けていることが感じ取れました。ただ、内容的には政治的に中立なので、ストーリーが規制を受けているという事はありませんでした。というか、政治的でない脚本にしたのだと思いますが。

*内蒙古の暮らし
1)動物 
ラクダ・馬・羊・猫など動物が結構出てきます。ラクダは、家財道具など荷役用、ヒツジは自分たちの食用及び販売用、馬は乗り物がわり。女性であるトヤや、年端もいかない子供たちがさっそうと馬に乗って駆ける様子は胸がすくような格好良さです。ママチャリや三輪車がわりに馬に乗っているのでしょう。
2)服
ふだんから伝統衣装を着ているのもいいですね。何かの獣でできた伝統的なコートは初めて見ました。
3)家
トヤの家は、モンゴル国で見られるような、ゲル(中国語で包パオ)という丸テントではなく、土壁で固められた質素な家でした。このような、定住だけど放牧型の暮らしをしているモンゴル人は、私が内蒙古を訪ねたとき、二連からフフホトの間で、見ることができました。中国では、移動しながらの遊牧をしているモンゴル人はほとんどいないのでしょうか。
トヤの旦那バータルは、もと、モンゴル相撲のチャンピオンですが、井戸の事故で下半身不随。モンゴルの首都ウランバートルが赤い英雄の意味なので、バータルは英雄という意味でしょう。不毛の土地でも水の確保は不可欠。私がモンゴル北部でテントの周りに井戸があるのを見て、こんなところでよく水が出たな、と思ったのですが、水は出てくるもんじゃなくて、出すんですね。この映画でも、岩盤を60回近くダイナマイトで爆発させてそれでも水が出てきませんでした。実際爆発事故で怪我する人も多いのでしょう。
4)飲み物
馬乳酒を造っているところが出てきました。木のたるに入れた白い液(馬の乳)を木の棒のようなもので上下にかき混ぜるところ。モンゴル国では町中で同じ大きさの大樽に詰めた馬乳酒を通りで売っていましたが、樽はプラスチックでした。白酒(字幕では焼酎となっていました)が頻繁に登場します。結婚式のシーンや、求婚のための訪問などでは、お猪口に入れた酒を指ですくって天と地に向けて飛ばし、そしておでこにつけてから飲んでいました。モンゴル国では、もっと豪快に天井まで着くくらい酒を飛ばしていました。ロシア国内ブリヤート共和国のモンゴル人はちょっと控え目でしたが、西洋的な店構えのドライブインに入ってもやっていました。チベットでは見た記憶がないのですが、チベット仏教の関係でしょうか。それともモンゴルの民族的な伝統?
5)他
結婚式は、子供も大人も伝統衣装。四角い足の短いちゃぶ台のようなテーブルの周りを皆が囲んで、歌ったり。おどるシーンは出てこないで、皆座ったままでした。バートルの横笛が何度かでてきます。馬頭琴は映像としては出てきませんが、挿入曲には馬頭琴が使われているようでした。

*夫連れの再婚
非常にユニークなコンセプト。夫連れの再婚というのは、実際にモンゴル族ではありうるのでしょうか。メンツを非常に重視する漢民族、個人主義の先進国、男性優位の中南米・イスラム圏ではありえない習慣だと思いますが。モンゴル人は伝統的に、宿泊男性客に女性(妻?娘?)を提供する習慣があると聞きますが、見栄よりも実質、利用できるリソースを無駄にしないという哲学があるでしょう。この哲学が、血の一滴も大地に流さない羊の解体方法にもつながるような気がします。
夫バートルは障害者、妻トヤ自らも重労働ができない体になり、夫の姉から離婚を勧められる。トヤは、裁判官に、財産分与と子供の扶養をどうするか聞かれるが、子供は勿論夫の扶養もするという。それでは離婚する意味がないが、子連れ・夫連れでも結婚してくれる人を探すというのだ。生活のため、そして、夫を愛するが故の再婚。裁判官の紹介で(!)、求婚者が何人も馬でやってくるが、夫連れという条件等がネックになって、実現しない。そんな中、トヤの同級生で石油採掘会社の社長が、バートルを養護施設に入れることを条件に結婚するが、バートルが情けなくて自殺を図り、結局は破談に。結局、妻に駆け落ちされた近所の男テンゲーと再婚することに。結婚式では、やけ酒をあおったバートルがテンゲーにつかみかかり、子供は他の子供に「親父が二人」と馬鹿にされ喧嘩になる。それまで一貫して気丈に振る舞ってきた鉄の女トヤが、小さなテントにこもって涙を流す。前途多難を予期させながら映画は終わる。

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