2009年3月7日土曜日

アフガン映画「アフガン零年Osama」

2003カンヌ国際映画祭カメラ・ドール賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞。アフガニスタンをテーマにした映画を私が見るのは「カンダハール」に次いで2度目ですが、アフガン人監督の作品はこれが初めてです。

映画の冒頭で「許そう、しかし忘れまい」というネルソンマンデラの言葉が引用されます。言うまでもなく、アパルトヘイトという理不尽と戦い17年間も獄中生活を送りながら、アパルトヘイト廃止後南アフリカの大統領になったあのネルソンマンデラです。この言葉を使って監督が表現したのは、アフガニスタン、タリバン政権下の理不尽です。


*あらすじ
タリバン政権下、女性は外で働くことが禁止されている。父親を亡くし、祖母・母と3人で暮らす少女には生きていく糧がない。祖母は少女に髪を切り少年になって家計を助けるよう頼む。少女は少年になり済まし牛乳屋で働くが、間もなくタリバンに連行されコーラン学校(マドラサ)兼軍事訓練施設に送られる。そこで女であることが発覚してしまった彼女には、タリバン式裁判の結果ある刑が宣告される。

* 印象的なシーン
1)切り落とした髪を植えるシーン
男になれと言われた泣いていた少女が、決意したかのように髪を切り、その切った髪を植木鉢に植えるシーンが心に残りました。
2)井戸につるされるシーン
まだ少女が男ではないことが完全に発覚する前の場面です。お仕置きを与えるときにこんな風にしていたのですね。。。。
3)石うちの刑
タリバン政権下よくおこなわれていた刑ですが、映像で見たのは初めてでした。手足を縛った受刑者を掘った穴に入れて、周りから石を投げて処刑するのです。受刑者には布がかぶせてあるので血なまぐさいシーンではありませんが、実際にこういうシーンが日常的に行われていたかと思うとぞっとします。映画には出ていなかったけれど、受刑者が逃げることができたら放免するというルールがあると聞きました。
4)妻たちの家
老人の妻にさせられた女性達だけが暮らす家(家の一棟?)が出てきます。老人は外から鍵を掛けて女性たちは逃げ場がありません。
5)ドラム缶風呂
マドラサの教官らしき老人は、新妻との初夜を前にドラム缶風呂(日本の五右衛門風呂みたい)に浸かります。幸せそうな老人の表情が、少女の身を案じる視聴者を憂鬱にさせます。

*キャスト
イラン映画によくあるように、本映画もキャストは皆素人起用だそうです。主人公の少女の涙は全て本物で、少女が泣きやまずに何度も撮影がストップしたそうです。

*諸悪の根源はタリバン?
私が考えさせられたのは、この映画に出てくる種々の理不尽はタリバン特有のものなのかという点です。
1)女性の就労
まず、タリバン政権下でなくともアフガニスタンで女性が働くのは困難である点に変わりありません。それはタリバン特有の問題ではなく、アフガニスタン社会やいくつかのイスラム教国の慣習です。男性の庇護を受けられない女性は物乞いするしかなく、この状況は今なお続いています。
2)ブルカ・スカーフ
次に、女性の自由を抑圧するシンボルのように登場するブルカも今なおアフガニスタンでは一般です。私がアフガニスタンを訪問したのは2度ともタリバン政権崩壊後ですが、ブルカを被っていない女性を地方で見ることはほとんどありませんでした。戒律の緩いシーア派の村でも髪は必ず隠しています。首都カブールですらブルカは一般的で、髪を覆っていない女性を見た記憶がないほどです。ヘラートからカブールまで飛行機に乗ったとき、右隣の女性はスカーフの端を左手で吊りだし、1時間の飛行時間中ずっと私に顔を見られないようにしていました。外国人の私に対してもそうなのです。タリバンとは関係なくアフガン社会が保守的だということです。
3)少女の強制結婚
親子以上に年の離れた少女をめとる習慣は他のイスラム教国やインドにもある慣習であり、タリバン政権特有のものではないはずです。
4)子供の教育
子供の教育の面ではタリバン時代よりも現在の方が改善されたかもしれません。しかし、カルザイ政権の力が及んでいるのはカブールのみという現状で、地方がどうなっているのか正確に確認することができないので、タリバン時代とどれくらい違うのか実のところはわかりません。

 監督のシディーク・バルマクはパンジール出身で、http://en.wikipedia.org/wiki/Siddiq_Barmak タジク族ではないかと思われます。パンジールはタリバン(パシュトゥー族中心)に暗殺されたタジク族の英雄アハメド・マスードの出身地ですし、反タリバン感情が強いのはやむを得ないし、共同制作者(本作品は日本・アイルランド・アフガン共同)の意向もあるとは思いますが、タリバンが何でも悪い的なイメージを視聴者に与えかねない編集は、ちょっとフェアではないと感じてしまったのが正直なところです。

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