2009年3月13日金曜日

アフガニスタン 映画 「In This World」

ちょっと前に見た映画でも感想まとめておかないと全然忘れてしまうものですね。「路Yol」とか「ヒロシマ ナガサキ」とか今年に入ってから見て感動したのにもうほとんど覚えていません。ショックです。一言感想でもいいから見たらすぐにまとめておくようにしよう。

さて、In This World。前から見たかったのですが、近くのレンタルビデオ屋に置いていないので、買ってしまいました。

(引用)「イン・ディス・ワールド」(In This World)は2002年製作のイギリス映画である。マイケル・ウィンターボトム監督。ベルリン映画祭金熊賞を受賞。主人公の少年達は、実際にパキスタンの難民キャンプ出身である。(引用終)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89



* あらすじ
パキスタンのペシャワールに暮らすアフガン難民の2人(エナセートとジャマル)がロンドンを目指して旅をする。ルートはパキスタン(ペシャワール・クエッタ・タフタン)-イラン(ザヘダン)-パキスタン(タフタン)-イラン(ザヘダン・テヘラン・マクー)・トルコ(イスタンブール)-イタリア(トリエステ)-フランス(パリ・カレー)-ロンドン。
部分部分の話は実際に不法入国を繰り返しながら国境を越えてきた「本物の旅人」達の実話に基づく。ロードムービー風に仕上がっていて、いつ捕まってしまうか分からない緊張感がひしひしと伝わってくる。主人公の2人は本物の難民、不法入国を手伝う手配師(フィクサー・「旅行代理店」)やイランの警察なども本物が登場しているという。国境越えマニア必見の映画。

* 印象に残ったシーン(ネタバレ注意)
1)オープニング ペシャワールの難民キャンプ
アフガン難民の話と聞いていたがアフガニスタンが出てこないこと・かなり最近の時代設定(2002、米のアフガン攻撃によるタリバン政権崩壊後)であることが予想外だった。私はペシャワールの難民キャンプに実際に行ったことがある。想像していたような悲壮感はなく、ただ人々のもてなしの精神に感銘を受けた。懐かしい気持ちでオープニングシーンを見た。初めてこの光景を見る人はどういう印象を持つだろう。キャンプでは、古くはソ連のアフガン侵攻79年から、最近ではアメリカのアフガン攻撃によりやってきた難民達が暮らしているという。旅立とうとするジャマル少年に付きまとう可愛い子供は実際の弟らしい。
2)フィクサーの登場
「息子に未来のある生活をさせたい」というエナセートのお父さんが、密入国の手配師(フィクサー)と話をつけるシーン。本物の手配師で、実際主人公のパスポートを取らせるためにパキスタン生まれのアフガン難民をアフガンに「密入国」させたり、パキスタンビザを偽造してもらったそうだ・・・。親父はフィクサーに手数料の半分を前納、残り半分は立会人に預け、ロンドン到着の連絡を受けてから残り半分が立会人からフィクサーに支払われる。密入国、という秘めたプロセスが、手際よくシステム化されていることに感銘を受けた。ここまでくると旅行代理店のようなものだ。「若者二人が自分達の意思で思い立ちわずかな金をもって無謀にも旅に出る」、という私の予想していた筋書きとは異なったが、裏ビジネスの実際が分かって面白かった。エナセートの旅には英語の話せるジャマルがお供に着くことになり、2人で難民キャンプを出る。「自分の国で生きる方が幸せだぞ」と引き留める者もあったが、2人に迷いは感じられない。「自分の国」と言ったって、彼らは「母国」アフガニスタンを知らないのだ。知っているのはパキスタン・ペシャワールの難民キャンプとその周辺だけ。
3)パキスタン-イラン
雑踏、薄暗いホテルの中、アフガン風で場末感漂うクエッタの怪しい雰囲気がそのまま映像にでてきて臨場感がある。「クエッタに着いたらxxホテルのxxという男に会え」という指示を受けている模様。相手をどこまで信用していいのか分からないが、とにかく誰かを頼らざるを得ない、という2人の葛藤が伝わってきてどきどきする。パキスタン国内で早速警察に捕まり餞別にもらったウォークマンを賄賂として差し出しながら旅を続ける。イランに入ると、パシュトゥー語は全く通じず、イラン人フィクサーとはエナセートの付き人ジャマルが英語で話をつける。2人がアフガン生まれであれば、アフガンの共通語ダリ語(古ペルシャ語)くらい話せるからイラン人と意思の疎通はできるのだが、パキスタン生まれのアフガン難民は民族の言葉しか離せないのが実際だろう。
4)パキスタンに強制送還
ザヘダンからテヘランまで普通のバスに乗る2人。こんなんでは検問で見つかってしまうよ!と思ったらあっさり見つかってパキスタンへ強制送還される。監督のインタビューによると、このイラン警察は本物で、2人が難民であることもあえて言わずに撮影したそうだ。(警察)「お前らアフガン人だろ」(2人)「いや、イラン人だよ(片言のペルシャ語で)」というやり取りもぶっつけらしい。でも普通のバスに乗せてしまうなんて、フィクサーの怠慢ではないか。インタビューによると、実際にパキスタンに強制送還された後、国境からテヘランまで徒歩で移動した難民がいたらしいが、イランの検問は頻繁なのでそのくらいしないと突破は難しいのではないだろうか。2度目はあっさりバスでテヘランまで行けてしまうところリアリティがない。
5)イランートルコ 山越え
イランートルコの国境越えは、夜間雪ふるなかを現地ガイドの引率のもと雪山をひたすら歩いて・・・。リアル。めちゃ寒そう。インタビューによると、国境警備隊を避けるために、わざと悪天候の日を選んで山越えするそうだ。
6)イスタンブール
自分もパキ-イランートルコと陸路で越えたことがあるが、改めて見るとイスタンブールは大都会だ。実際にペシャワールから出たことのなかった2人にとって大都会イスタンブールがどんなに煌びやかに見えただろうか。不法移民の働く食器工場が出てくるが、本物らしい。
7)イタリアートルコ
トルコからイタリアまで。コンテナに乗せられて船で運ばれる。何時間かかるのか聞こうにも言葉が通じず、狭い箱の中に閉じ込められるのは実際どんなに不安だろうか。コンテナを内側からたたいて「あけてくれ」と叫ぶが、もちろん誰もあけてはくれない。酸欠になってしまったのか、同行するイラン人難民の乳児の泣き声がぱったり止む。イタリアに到着。数十時間ぶりにコンテナが開けられると、死んでしまったのかと思っていた乳児が泣き出す。「ああ、良かった」、と一息つく間もなく、ジャマルの相方エナセートが死んでいることが発覚。実際にコンテナに詰められて不法移民が死んでしまうことは良くあるようで時々ニュースになっているが、映像で見ると生々しい。
8)イタリアーフランス
一人になったジャマル。観光客の荷物から盗んだ金でフランスへ列車移動。盗むシーンはかなりどきどきである。フランス国内では危険な目にあわず、ちょっとうまくいきすぎという感じで物足りない。
9)フランスーイギリス
フランス側の難民キャンプで知り合った男と一緒に、トラックに乗り込んでイギリスへ。板切れを二枚持ち込んでそれをタイヤの上のスペースに敷いてうつ伏せで潜伏。入管職員らに懐中電灯で照らされ発覚する確率は高そうだが、映画では何事もないままロンドンに到着しており、ちょっと臨場感が足りない。
10)故郷へ電話
ジャマルがパキスタンの難民キャンプの親族へ電話をかける。「付き人」である自分が無事到着し、エナセートは死んでしまったことを報告。電話の向こうのエナセートの親父の頬を涙が伝う。命がけで旅をする難民達。それに比べ僕ら先進国の旅人のなんと気楽なことか。同じようにロンドンからの到達報告の電話シーンで終わる深夜特急がとても軽薄に思えた。

* 実際のジャマル少年
ジャマル少年は、撮影終了後一旦パキスタンの難民キャンプに戻るが、撮影用に取った英国滞在ビザの期間がわずかに残っていることから、出演料で航空チケットを買い一人ロンドンにやってきて難民申請したという。そして難民申請は棄却されたが2年間の特別在留許可がでてロンドンで生活しているそうだ。2009年の今、もうその許可も切れているはずだがジャマル少年は今どこで何をしているのだろうか。現実とフィクションがクロスオーバーしている点がとても興味深いと思った。
映画に出演しなければ夢で終わったであろうロンドン。しかし、今彼はロンドンで不法滞在の身。まともな仕事にも就けず裏街道を歩んでいくしかないかもしれない。ペシャワールの家族と会うこともなく。それは彼にとって「未来のある暮らし」なのだろうか。それとも例え刺激のないキャンプでも家族と一緒に暮らせる日々を恋しく思っているだろうか。
冒頭ペシャワールでのシーンで出てきた、「ロンドンに行って未来のある生活」を送れという親父の言葉、「自分の国で生きるほうが幸せだぞ」と引き止めた親戚の言葉、この2つの言葉をジャマル少年はどのように受け止めたのだろうか。

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