2009年3月26日木曜日

サモア 咬まれたらどうする?

サモア 咬まれたらどうする?

・ 発病後の死亡率はほぼ100%で、確立した治療法はない。
・ 毎年世界中で5万人の死者
・ 脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡

なんの病気だか分かりますか?
もう少しヒントを出すと:

・ 英語の病名はRabies、通称Hydrophobia
・ 恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)

南太平洋のサモアは美しい海に囲まれた平和な島々。大型野生動物もすんでおらず、旅行者が身の危険にさらられることはまずありません。そんなサモアで気をつけるべきは2つ。1)酔払と2)犬です。

サモアの首都アピアは夜になると犬の吼える声が響き渡ります。まるで狼のいる森でキャンプしているような気分になるほどです。サモア人でも野犬を問題視しており、サモアのマノノ島では犬の飼育禁止・完全駆除を実施していているくらいです。サモアの北、トケラウ諸島でも犬は禁止で、子豚がペット代わりに可愛がられていました。

トケラウ諸島から戻り、ニウエ行きの飛行機を待つ私は、ウポル島一周ツアーに参加しました。前回サモア訪問では、サバイ島は一周したものの、ウポル島は町歩き・市場巡り・現地人と歓談に徹し、郊外に行く機会がなかったのです。

ツアー参加者は私の他、オールトラリア人5人(1家族と1カップル)。ガイドはサモア人にしては小柄で名前はスキッパ(s)、ドライバーは元マヌサモア(ラグビーのサモア代表チーム)で超巨漢。昔の首長の墓・パラダイスビーチ・小さな洞窟などを通って、景色のいい山道で私たちは写真休憩に入りました。

現地の人が3人、3匹の犬を連れて散歩しながらこちらに近づいてくるのが見えました。首輪がついていることから、野犬ではなく、飼犬ということが分かります。体の大きさは同じくらいで体色もそろって茶色。3つ子でしょうか。可愛い・・・。私はとっさにしゃがみこみ、両手をたたいて、犬に向かって手のひらを広げました。「おいで!」と。

すると、可愛い犬達、30m先から私に向かって駆けよってきました。・・・バウバウと吼えながら猛烈なスピードで・・・。首輪はあるのに紐はついていなかったのです。

血の気が引いた私は、あわてて犬に背を向けてツアー車の裏に回りこんで逃げようとしましたが、時すでに遅く、3匹の犬はものすごい息遣いとともに私に襲い掛かりました。耳や首を咬まれぬよう、頭の後ろで手を組む(=腹筋運動の手の構え)のが精一杯。直立していましたが、無防備な背中と下半身に鋭い爪がひっかかります。そして、一匹が私の左のふくらはぎに噛み付きました。私は「ぉぉぉおお!」と犬のように悲鳴を上げました。

飼い主が合図したのでしょう。すぐに犬達は私から離れ、飼い主の元へ戻りました。

出血を伴うような引っかき傷は体に残りませんでしたが、左ふくらはぎの咬みあとからは血がにじんでいます。痛みはひどくありませんが、致死率100%の狂犬病(冒頭の特徴)が頭をよぎります。

飼い主達は、そのまま山道を登っていきます。ニコニコしながら・・・。私の怪我を確かめたり、詫びに来ることもなく。男3人は、肩の後ろに猟銃を担いでいました。「飼い主」は猟師で、「飼犬」は猟犬だったのです。

ガイドのSが私のところにやってきました。ゆっくり歩いて。
s「あ、ちょっと咬まれた?」
私の生死がかかっているというになんと言う落ち着きでしょう。

s「心配しなくていいよ。サモアに狂犬病(のウィルスを持った犬)はないから」
km「本当?100%?」
s「100%本当だ」
サモア人のいい加減さには慣れっこの私。sの言葉を信用できません。

km「でも血が出ているよ。一応病院で診てもらいたい・・・」
s「大丈夫、大丈夫」

日本のツアーガイドなら、ツアー中断してでも私を病院に連れて行く場面ではないでしょうか。
でも、サモアでは違うようです。2メートル10cm超巨漢マッチョのドライバーが無言で上から見下ろしています。「かすり傷くらいでビービー言うんじゃねぇ」とでも言うように。

Sの次の行動に私は自分の目を疑いました。
ポケットからタバコを一本取り出し、巻紙をほぐして、中のタバコの葉を手のひらに広げ、私の傷口を前にしゃがむと、その葉をつまんでぺたぺたと傷口に貼り付けたのです。
s「これで大丈夫だから」

サモアに伝わる民間療法なのでしょうか。タバコ=ニコチン=毒、というイメージしかない私にとって、「タバコの葉療法」は迷信としか思えません。

けれど、サモアの病院じゃ、ワクチンなど置いていないかもしれないし、今日中に大病院のあるオーストラリア・ニュージーランドに出国できたとしても到着までにはウィルスが体内に回ってしまっているから、今さらじたばたしても仕方ない(km注:これは誤解です)。夜間あれだけ犬が吼えるこの島では毎年何人も犬に咬まれている筈で、それでサモア人が狂犬病の心配はないと言うのだから信じてよいはず、と自分に言い聞かせました。

ツアーのオーストラリア人達は、「あなた、大丈夫?」と声をかけて心配してくれましたが、内心おかしくて仕方がなかったのではないでしょうか。彼らにしてみたら、猟犬にちょっかい出して咬まれた間抜けな東洋人の話は土産話にもってこいです・・・。

咬まれてからワクチン摂取することもなく約3年がたちましたが、幸い狂犬病は発病していません。Sの言うとおり、サモアに狂犬病ウィルスはないか、または、タバコの葉が効いたのでしょう。

(サモア訪問 2006年5月、6月)


*犬に咬まれたときの正しい対応
1)とにかく洗浄
帰国後分かったことですが、仮に咬んだ犬が狂犬病ウィルスに感染していたとしても、狂犬病ウィルスは弱いので、傷口をすぐに石鹸で洗えば死滅するようです。ワクチンが入手できないようなところでも、パニックに陥ることなく、すぐに石鹸で洗うことを心がけましょう。
2)できればワクチン
また、ウィルスが体内に入ったあとでも潜伏期間の間にワクチン注射を受けられれば発病は回避できることが多いようです。100%死ぬというのはあくまで発病後のことです。私は、咬まれたあと急いで血清を打たないと死んでしまう毒蛇の場合と混同していたかもしれません。

詳しくはWiki参照。狂犬病患者の写真なども掲載されています。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%82%E7%8A%AC%E7%97%85

* タバコの殺菌作用
なお、タバコの葉には、殺菌作用と止血作用があるというブログ記事を見つけました。この記事が正しければ、ガイドのsの対応はまさに適切だったことになります。しかし、「タバコ 殺菌作用」で検索して見つかったのはこの記事一本だし、医学的根拠があるか疑問です。http://furifuri1029.blog85.fc2.com/?mode=m&no=5

* 犬に咬まれないための対策
ガイドのsに言われました。
「あのね、猟犬に背を向けたら追いかけられるんだよ。逃げる獲物を追うのが彼らの仕事なんだから。」
猟犬と分かっていたら私はそもそもちょっかい出していないのですが・・・。(鳥を狩るための猟犬なので特に大型ではありませんでした。)
1)戦う
猟犬ではなくて、普通の犬でも背を向けないほうが良いようです。石を投げるか、ぶつけるふりをするのが効果的らしい。石がなくても手持ちのコインでいけるかも知れません。
傘や杖や落ちている枝も役立つかもしれません。
でも私は闘って犬に逆切れされるのが怖いです。
2)守る・逃げる
とっさには難しいでしょうが、手ごろな木があったら登ってしまう手もあります。
短パンTシャツより、長袖長ズボンの方が身を守れるでしょう。私は事件当日短パンをはいていてふくらはぎは無防備でした。
逃げ場がなければ、首を噛み切られないように、首から上を防御することに徹したほうがよいかと思います。ジャンパーがあればそれを頭からかぶってしまうとか。
しゃがんで丸くなったら餌食になるだけだと思うので、私のように直立していた方がよいのではないでしょうか。たまたまかもしれませんが、この事件で上半身は無傷で助かりました。

* サモア人は超でかい。
サモア・トンガ・フィジーは小国ながらラグビー大国です。それもそのはず。男も女もやたらでかいのです。サモア人はとくに身長のみならず体重がすごい。角界で言えば、小錦はサモア系、武蔵丸はサモア/トンガ系。格闘家のマークハントはサモア/NZ、プロレスラーのザ・ロックもサモア系です。

* アンゴラ 野犬に囲まれる恐怖
25年続いた内戦を経てやっと平和になったアンゴラ。アンゴラの首都ルアンダには、冷戦下ソ連の影響を強く受けた無機質でビルが立ち並ぶ。ビルには砲弾、内戦の爪跡がくっきりと残されています。それらのビルがモナコ・フランスのコートダジュールのような海岸通に並んでいるのがシュールでした。メインストリートを抜けて、細く伸びた岬に入ると、店も人も少ない寂れたビーチが広がります。タクシーを降りて海辺を歩こうとタクシーを降りようとした私は、あきらめて車内にとどまることにしました。夥しい数の野良犬が、吼えながら、タクシーの扉のところに終結してきたのです。20頭はいたのではないかと思います。ここでタクシーを降りたら、サメの泳ぎ回るビーチに飛び込むようなもの。私はタクシーから降りずに、窓から写真をとって移動しました。

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